Thinking Out Loud

楽しく真剣にグローバルに。某国立大学の平職員です。

世界大学ランキングについて

University World Newsに世界大学ランキングに対する専門家の見解が多数投稿されています。どうも、英国の高等教育関係のシンクタンク(=Higher Education Policy Institute)が世界大学ランキングの欠陥を指摘する報告書(内容はそこまで目新しいものでは無さそうなので割愛)を発表したことで、議論が盛り上がっているようです。

 

私が読んだのは、以下。

Why most universities should quit the rankings game - University World News

 

上記記事の著者であるPhilip G Altbach氏とEllen Hazelkorn氏は、どちらも世界大学ランキング関係で著名な研究者で、私もいくつか論文を読ませていただいたことがあります。記事の内容を大雑把に要約すると、

 

  1. (特に中堅の)大学は、ランキングを気にすべきでない。
  2. ランク向上のために必要な資源は膨大で、それによってもたらされる(かもしれない)順位の向上には全く見合わない。
  3. 実際、各年の順位の変動は主にランキング方法の変更によってもたらされている。
  4. 研究に関する指標を重視する世界大学ランキングを気にするあまり、大学が本来持っているその他のミッション(=教育など)を見失ってしまう可能性がある。
  5. ランキングでは無く、それぞれの大学が持つミッションを重視すべき。

 

以下、所感。

 

至極真っ当な意見であると思います。特に注目したいのは、上記2と3です。日本の大学がどれだけ頑張ろうと、同じ目的により多くの資源を投入できる新興国(例えば中国)に敵うはずがないし、ランキングを上げようと頑張ったところで順位が大して変わらないのであれば、気にするだけ損だと思います。

 

また、振り返ると、2015年のTimes Higher Education (THE)社による世界大学ランキングで日本の大学が揃って大きく順位を落としたことが話題になりました。順位が落ちた理由はランキング方法の変更によるものとされ、特に国別補正(=country normalization)のかけ方の変更が大きかったようですが、ランキング方法の変更が大学の努力以上の影響をもたらすとしたら、やっぱり気にするだけ損だと思います。

 

参考:World University Rankings blog: treating countries fairly | Times Higher Education (THE)

 

ただ、だからといって世界大学ランキングを無視することは容易ではありません。日本の大学が好むと好まざるとに関わらず、海外の学生や研究者、ひいては政府までもが世界大学ランキングを参照し、留学先や勤務先の選択、自国からの海外留学希望者に対する政府奨学金の支給基準等に活用しているからです。特に政府奨学金については深刻です。日本でも「トビタテ!留学JAPAN」の世界トップレベル大学コースでは、世界トップ100に入っている大学への留学を希望する人に対象を限定していますが、海外でも似たような事例(ブラジル、サウジアラビアなど)は沢山あります。こうした政府奨学金を使って日本に留学したい人をリクルートすることができるのは、世界大学ランキングで良い順位に位置付けている大学だけです。

 

じゃあ、結局どうすれば良いのでしょうか。私の考えは以下の通りです。

 

  1. はじめに、ランキングから一旦離れて長期戦略を策定することが重要です。日本のスーパーグローバル大学創成支援事業では「2023年までに10校をTop100にランクイン」させることを掲げていますが、仮にこの目標を達成できたとして、2024年以降のビジョンを提示している大学はそう多くありません。例えば、2030年や2040年の大学のビジョンを策定し、世界大学ランキング対策はこのビジョンに収まる範囲内において検討・実施するとしてはどうでしょうか。世界大学ランキングにおける順位は、目標には成り得ても目的には成り得ません。まずは目的(大学のミッション)に基づく長期戦略を策定し、長期戦略の下位目標として世界大学ランキングにおける順位の向上を位置付けるべきです。
  2. 上記によって、大学の意思決定が変に揺さぶられる心配はだいぶ軽減されると思います。その上で、日本の大学はランキングの順位に一喜一憂せず、ランキングの評価指標のうち、自分の大学にとっても重要と思われるものだけを見るべきだと思います。例えば、Citationsの指標は客観的な指標ですし、かつ研究大学にとっては平等に重要な指標ですから(分野と言語の問題は残りますが)、総合評価は置いておいてこの指標だけを見る。そう決める。ここまで出来れば、「大学の長期戦略・ミッションと照らし合わせても重要だと考えられる特定の個別指標だけを気にすれば良い」ことになり、より芯の通った大学経営ができるようになると思います。
  3. 最後に、ランキングの見方によっては日本もそう捨てたものではないということを付言しておきます。例えば、上述のTHE社による世界大学ランキング(2016/17)において、日本の大学は上位Top200に2校しか入っておりませんが、ランクインしている全大学(978校)に範囲を広げて見れば、米国(148校)、英国(91校)に次いで、日本は3番目です(69校)。ちなみに、この後は、中国が52校で4番目、ドイツが41校で5番目と続きます。つまり、日本には”スーパー”な大学は少ないかもしれませんが、”グッド”な大学は世界と比べても比較的多いのです(もちろん人口差を考慮する必要はありますが)。

 

もう少しミクロな視点で見れば、Impact Premiumをもたらす国際共著率を上げるとか、その前段階である国際共同研究の促進だとか、細かい戦略は立てられますが、まずはマクロな視点で世界大学ランキングに対する態度をはっきりさせることが重要です。

 

知の拠点たる大学が、民間企業が勝手に作成しているランキングの結果に右往左往する姿は、あまり見ていて気持ちの良いものではありません。世界大学ランキングの登場を良い機会に、それぞれの大学が自身のミッションを再確認し、ブレずに頑張っていって欲しいと思います。